さて「契約金100万円以内で居抜物件を見つける」という目標を掲げた僕は、手始めに理想としていたエリアである、原宿、渋谷界隈の不動産屋さんから攻めてみる事にしました。
不動産屋のドアをくぐり、店員さんに飲食店用の物件を探しているという旨を告げ、図面の山をかたっぱしからチェックしていく訳です。。ツꀀ図面に食い入るようにして見入る様は真剣そのものだったはずです。だって本気ですから。
不動産屋にある図面を隅から隅まで調べるとうのは、結構な時間を要します。慣れない作業なだけに数件の不動産屋を巡るだけでかなりの時間を費やしてしまいました。
でも、数件の不動産屋さんを巡るうちに、すぐにある2つの事に気が付きました。
一つは、「不動産屋に出回っている情報の多くは、他の不動産屋にも出回っている」という事です。
もう一つは契約金が「100万円以内の居抜物件などまず無い」。殆どの物件が造作譲渡費用だけで100万円以上するという現状でした。
小一時間粘って、不動産屋にある図面の全てをしらみつぶしにチェックしてみても、それらの図面の多くはどこか他の不動産屋で見かけた物であったり、しかもそのどれもが予算を遥かにオーバーしていたのです。
このやり方では時間がいくらあっても足りない。。
僕はやり方変える事にしました。
不動産屋さんに僕の望む条件を提示して、「もし条件に合う物件が出たら連絡をください」と伝える方法です。
不動産屋さんに伝える条件をあらかじめ紙に箇条書きにして、それを見せる訳です。
紙には次の様な内容の事を書きました。
①希望エリア:広範囲(渋谷区、世田谷区、杉並区、目黒区等)
②面積7坪~11坪程度
③坪単価1万3500円以内(上限15万円)
④合計契約金100万円以内(敷金礼金、保証金、造作譲渡費、前家賃等含む)
⑤飲食店居抜き物件(元喫茶店、スナック、ラーメン屋、焼肉屋、レストラン等)
⑥立地及び何階かは問わない(駅から離れていても構わない。むしろ多少離れている方が良い。)
⑦古い物件の方がいい。
そんな所です。
激安物件しか手が出せないという事で、希望エリアは「渋谷駅周辺限定」みたいな贅沢は到底言えません。もう正直場所はどこでも良いと思っていました。
とにかく自分がやってみたいスタイルを形にする。。それだけが目標でした。
という訳で①のエリアは「広範囲」としました。
従業員は雇わず、一人で店を立ち上げるつもりだったのと、家賃は払えてもせいぜい15万円がマックスだなと考えていたので、②の面積は7坪~11坪としました。
払える家賃の上限が15万円と考えていたので、カウンターだけの狭い物件でも仕方がないと考えていました。でも出来ればテーブルの一つや二つ置ける位の広さの店がいいなぁと考えていました。その方が僕が思い描いていたカフェの雰囲気が出しやすいと思ったからです。カウンターだけだと、どうしてもバー的なイメージが強くなるような気がしたのです。
最後の⑥と⑦の2項目についてはちょっと「えっ?」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、契約金が100万円以内という事で、駅近や新築の物件は現実的に無理だったというのと、僕は本気に駅から離れている古い物件にこそ、興味があったからなのです。
その理由については、また後で記す事にします。
これらの条件を提示すると、殆どの不動産屋さんは苦笑いしながら「これはないですね。」の一言で終わりでした。文字通り「一笑」されて終わりです。
でも、このやり方であれば、一軒の不動産屋さんでの滞在時間はほんの僅かで済みます。
その分、随分多くの不動産屋さんを回ったかと思います。正確には覚えていませんが、恐らく50軒は楽に超える数の不動産屋を回っているはずです。
数打ちゃ当たるの理論で、そのうちに何軒かの不動産屋さんから連絡がありました。
実際に条件に見合った物件の場合には、すぐに内覧をしました。
原宿や、渋谷、目黒では、僕の条件に見合う様な激安居抜物件は全くありませんでしたが、当時まだそれほど人気が無かった池尻大橋や、三軒茶屋、それから阿佐ヶ谷や高円寺辺りでポツポツと条件に収まるような物件を内覧させていただきました。
元カラオケスナックの物件、ラーメン屋。風俗関係に使われていた物件等いくつかの候補がありました。その中で最終的に、池尻大橋の元寿司屋さんだった物件と、三軒茶屋の元カラオケスナックであった今のuguisuの物件の2つに強い興味を持ちました。
池尻大橋の元寿司屋物件には、完全な状態の美しい厨房設備が残してありました。ガスコンロに、冷蔵庫、シンク、ダクト、ネタ用のショーケースまでかなりいいコンディションで揃っていました。しかも造作譲渡費用は0円でした。
正に明日からでも即営業出来る様な状態です。
一方、三軒茶屋の元スナック物件は、とにかくひどい荒れ様で、ここに一晩泊まったら病気になるのでは?と真剣に思う様な有様でした。
壁には剥がれおちた壁紙や打ちつけられた板、ポスター等が何層にも重なっていました。厨房はここで書き記すのをためらう程に、それはそれはもう大変な事になっておりました。
でも、なぜだかはわかりませんが、三軒茶屋の元スナック物件には何か惹かれる魅力がありました。
荒れ放題の物件でしたが、色々と直せば何かいい雰囲気が出せる様な気がしたのです。
物件の壁にはとても古いスピーカーが埋め込まれてあって、それが凄く気に入ったのを今でも良く覚えています。
この物件はかなり色々と手を入れなければならないけれど、このスピーカーだけはこのまま残そう。。
僕は自分がそこでカフェをやっている図を想像しました。
カウンターの中に立って料理を作っている姿を想像しました。
ネルドリッパーをカウンターに置き、コーヒーを点てている所を思い浮かべました。
テーブルをこことここに置こう。
ソファはあの窓際がいい。ソファの横にはサイドテーブルを置こう。
僕が長い間想像し続けてきたカフェスタイルのいくつもの断片が、次々とその空間に当てはめられていきました。
最後に壁に埋め込まれてあった古いスピーカーから音楽が流れ出て来るような気がしました。
そうして僕はこの物件に決める事にしました。
それが今のuguisuの原型です。
ときどきお邪魔してます。
犬の散歩中、仕込中のところを外からみて、「楽しそうな店じゃないかい」
と思ったのがきっかけです。それからしばらくして、初めてお店に入ったとき、
これは前はスナックかなにかだったところを居抜で使っているに違いないと思ったものですが、やはりそうだったんですね(笑)。料理する人は大変そうですよね。
でも今のお店の様子からすると、紺野さんが選んだと同時に、お店のほうでもuguisuを呼んでいたってかんじさえしますね。
早く続きを書いて下さいー。続きが読みたい!
今週末、お伺いするのを楽しみにしています。